「私は、銀行の仕事が好きだったんです。でも……嫌いでもありました。」
銀行で20年近く働いてきた私が、いま改めて思うのは、この矛盾した感情です。
好きだったのは、「社長と一緒に目標に向かう」こと
中小企業の社長から事業の話を聞く。
「なるほど、これは面白い」と心からうなる。
その思いや構想に、融資という形で応える──。
もちろん、私たちはベンチャーキャピタルではありません。ハイリスク案件には手を出せません。
でも、可能性を感じる事業に現実的な着地点を一緒に探っていく。
このやり取りは、銀行員として本当にワクワクする瞬間でした。
嫌いだったのは、「数字のためだけにお金を動かす」こと
一方で、どうしても納得できなかったこともあります。
たとえば、ノルマのために、無理に融資枠を膨らませる。
お客様にとってベストなタイミングではないにもかかわらず、運用商品や保険を提案する。
本部が“売れ”というから、営業店は“売らなければならない”。
「今が買い時です」とは言えない──でも、それ以上に“アウトだらけ”の現実
「今が買い時です!」
このセリフは、断定的判断の提供に該当します。コンプライアンス上、一発アウトです。
でも、私が本当に言いたいのはそこじゃありません。
アウトなのは、このセリフだけじゃない。むしろ、そんなのは氷山の一角です。
本部はマーケット環境にかかわらず「売れ」と言う。
「短期目的はダメ」「ちゃんとした実需か?」と形式的に確認する一方で、
実際は“売上ノルマ”というプレッシャーで現場を押しつぶしていく。
そして私は、心の中でこうつぶやいていました。
「90%以上の銀行員が、何かしら“建前”の中で嘘をついているのではないか」と。
でも、現役の人は誰も口に出せない。
だから私は、いまここで、声を小にしてそっとつぶやかせていただきます。
「社長の役に立ちたい」──その思いだけで、ここまで来た
それでも私が銀行を辞められなかったのは、「社長と話せる楽しさ」があったからです。
事業への情熱や葛藤を直接聞ける、あの時間が本当に好きでした。
応援したくなる人たちと出会えたから。
きれいごとだとわかっていても、その気持ちを捨てきれませんでした。
そして今、メーカー勤務で見つけた“本当のやりがい”
現在はメーカーで働いています。
自社製品の魅力を心から信じています。
「この製品を知らずに困っている人を助けたい」と、本気で思える仕事です。
誰かに「売らされる」のではなく、「売りたい」と思えるものを扱える。
こんなに幸せな仕事は、銀行時代にもなかったかもしれません。
しかも、お客様は変わらず“中小企業の社長”。
私が一番好きだった仕事の本質は、ここにもあるのです。
FP1級、宅建──資格は「武器」にも「翼」にもなる
頭の悪い私の小さな自慢ですが、FP1級と宅建を取得しています。
……とはいえ、これも今となっては「過去の最大瞬間風速」みたいなものです。
でも、不思議なもので、資格を取ると銀行内での評価がガラッと変わるんですよね。
上司や役員から声をかけられたり、提案書に名前が載ったり──
直接的な昇進だけではなく、「間接的にチャンスが舞い込んでくる」。
これが、資格取得の一番おいしい副産物かもしれません。
転職サイトでも、資格を登録しておくと、いろんな求人が表示されます。
でも、そこで「直近10年のメンテナンス状況」なんて、誰も聞いてきません。
結局、見られているのは“今何ができるか”より、“何を持ってるか”だったりします。
だからこそ、肩の力を抜いて、「ちょっとスケベ心で資格を取っておく」のも、悪くない選択なのです。
ふと覗いた「日経転職版」──銀行にも変化が起きていた
ある日、スケベ心で「日経転職版」を覗いてみたのです。
転職の予定もないのに──いや、ないからこそ気楽に。
すると驚きました。ジョブ型採用が、思った以上に広がっていたのです。
時代は変わりましたね。
- FP1級を活かせるポジション
- 事業承継や遺言信託など、お客様としっかり向き合える業務
- メガバンクや地銀本体の財務・市場関連職
以下は日経転職版に実際に掲載されていた求人の一部です



出典:日経転職版(2025年5月時点)
年収は400万円〜1,500万円と幅広いですね。
プロパー部長クラスで1,200~1,500万円程度、中途のキャリア採用はその下のレンジ。
40代のそれなりのキャリアの人なら
おそらく実際の着任水準は700万〜1,000万円前後ではないでしょうか。
金額的には「めちゃくちゃ魅力的」とまでは言えず、キャリアを切ってまでは悩みどころですね。
ただ、考え方によっては「好きな仕事を、ずっとできる」ならば、十分アリだと思います。
疲弊して、病むくらいなら、調べればいくらでもあります。
資格はあった方が、採用される確率が高く、処遇もよさそうですね。
なかなか社内のAO制度はチャンスも少なく、限定的。
他行の転職先のトレンドを先に見て、そこから採用されるように動く、そんな後付けで追いかけてもいいのでは?
「出世レース」じゃなくてもいい──自分の専門性を磨くという選択
「銀行のプロパーコースじゃないと…」
そんな声もありますが、もう時代は違います。
出世やライン長を目指さずとも、
好きな業務に特化した専門職として、銀行に戻る道もある。
経験と資格を掛け合わせて、他行でキャリア採用されるという新たな選択肢です。
最後に:スケベ心で覗いてもいい、「日経転職版」
もしあなたが、今の銀行業務にモヤモヤしているなら。
もしあなたが、「好きな仕事だけ続けたい」と思っているなら。
ちょっとだけスケベ心で、「日経転職版」を覗いてみてください。
想像以上に、あなたの経験と資格が活きる“居場所”が広がっているかもしれません。
銀行員としての経験をどう活かすか。
それは「肩書き」や「出世」ではなく、「どんな仕事を、どんな気持ちでやるか」で考える時代になったのです。
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