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【11】【出向・転籍】支店長でも避けられない現実。50代からのキャリア分岐点とは?

「まさか自分が“出向待機組”になるなんて――」
そうつぶやくのは、かつて部下を率いた支店長経験者。

銀行では、**50歳を過ぎれば、どんな肩書きでも“例外ではない”**のが現実です。
そして1年後、耳元でささやかれます。

「転籍すれば、退職金に1,200万円上乗せしますよ」

出向するか、残るか。転籍するか、断るか。
選ぶのは自分――でも、備えていない人には選択肢すら与えられません

本記事では、そんな50代銀行員のキャリア分岐点「出向・転籍」のリアルを、
制度の仕組みから、実際の処遇、そして“その先”までわかりやすく解説します。

目次

🏷 第1章:出向とは?〜籍は銀行、仕事は他社〜


「あなたのキャリア、まだ“本体”にありますか?」

気づけば、出向待機の列に並んでいた――
そんな言葉が、50代銀行員の間で、静かに現実味を帯びてきます。

かつて部下を率いた支店長。
本部で組織を動かしていた課長・部長クラス。
そんな人たちが、今では「次の行き先」を人事部から告げられ、
“次のキャリアステージ”に向かって送り出されていく


🔹 出向とはなにか? 〜在籍は銀行、でも評価軸は別の世界〜

出向とは、銀行に在籍しつつ、他社(グループ会社や取引先など)で働く制度
法的には「在籍出向」と呼ばれ、形式上は“異動”ですが、実質は別の人生の始まりです。

勤務先の社名も変わり、名刺も変わり、評価も給与体系も変わります。
行内で培った人間関係や功績はリセット。
ゼロベースのキャリアが、またここから始まるのです。


🔹 一見優しい制度の、優しくない現実

銀行はこう言ってくれます。

「安心してください。出向前の給与は定年の60歳まで保証されますから」

たしかにありがたい制度です。
でも裏を返せば、“出向を受け入れれば”の話

もしこれを断ればどうなるか?
行内に役職は用意されておらず、
現場プレイヤーとして、かつての部下の下で働くという現実が待っています。

つまり、出向は“選択肢”のようでいて、
**実質的には「事実上の一択」**なのです。


🔹 50代の静かな列──“出向待機組”のリアル

50歳を迎える少し前、ふと気づけば
「次は誰が出向するのか」という空気が社内に流れ始めます。

昇進・異動・肩書きの裏にある“見えない順番”。
人事の動きを見る目が変わり、自分もついにその列に入っていることを感じ始める。

誰にも言わないけれど、みんな気づいている。
それが、銀行員の“出向前夜”です。


🔹 出向先で待っているもの

たとえ肩書きが「社長」や「副社長」でも、
処遇を含めてグループ会社のそれは横滑り、または格下感のあるポジションのケースが多いです。
現役時代のように、力強く決裁できるとは限りません。

かつての部下に「今度こちらでお世話になります」と頭を下げ、
お客様に「また来てくれたんですね」と言われる。
やがて、それが日常になっていく。

一方、取引先企業への出向は完全な人事ガチャ
実力だけではなく、「タイミング・人脈・運」がものを言います。



🏷 第2章:転籍の誘惑とカラクリ 〜「退職金1,200万円上乗せ」の正体〜


出向から1年ほど経ったある日、
人事部から、静かにこう切り出されます。

「転籍すれば、退職金に1,200万円上乗せされますよ」

語尾はやさしい。表情も穏やか。
でもその一言には、銀行員人生の“終章”を決める意味が込められています。


🔹 転籍とはなにか?まずは定義から整理

「転籍」とは、現在出向している会社に完全に移籍すること
つまり、銀行との雇用契約を解消し、銀行員としての籍が消えるということです。

項目出向転籍
雇用主銀行(在籍のまま)出向先企業に完全移籍
雇用契約継続終了・新たに結び直す
給与保証銀行が差額を補填補填なし(自己責任)
退職金通常通り条件付きで上乗せされることあり

転籍を決断した瞬間、あなたはもう“元銀行員”になります。
その見返りとして提示されるのが、**「上乗せ退職金」**なのです。


🔹 なぜ1,200万円も?仕組みを分かりやすく

たとえば、以下のようなケースを見てみましょう。

  • 年齢:54歳
  • 銀行時代の年収:1,000万円
  • 出向先での年収:800万円
  • 定年までの年数:6年

この場合、年収差額の200万円 × 6年 = 1,200万円
ざっくりこれが、転籍時の「退職金上乗せ額」として提示されるわけです。

銀行としては、「差額を払い続けるより、今ここでまとめて支払ってもらえたほうがいい」という合理的判断。
裏を返せば、**これが最初で最後の“好条件”**とも言えます。


🔹 そのとき、あなたはどうするか?

転籍することで、出向先企業における「正式な社員」になります。
今まで“外部の人”として遠慮していた部分も、晴れて自分の職場になるわけです。

でも、一度銀行を離れたら、もう戻る場所はありません。

「安定」か「繋がり」か――。
そこで多くの人が揺れます。


「この会社で本当に、定年まで勤め上げられるのか?」
「このタイミングが最後の好条件かもしれない……でも、今決めていいのか?」
「何より、自分はもう“銀行員じゃなくなる”んだな」

これはもう、“制度”ではなく“人生の決断”です。


🔹 銀行が“いま”提案してくる理由

ここには、人事部の静かな戦略があります。

  • 出向待機の50代がまだ控えている
  • 転籍者が出れば、出向枠が空く
  • 人事異動の調整コストが下がる
  • 給与補填を6年払い続けるよりも、退職金で一括処理した方がコストが軽い

つまり銀行側にとっても、**「今のあなたに転籍してもらえるのが一番都合がいい」**のです。

だからこそ、このタイミングの打診は“好条件”。
これを逃せば、次はもっと条件が厳しくなるかもしれません。


🔹 断ることはできるのか?

もちろん、転籍の提案を断ることも可能です。

55歳未満であれば、一度本体に戻って次の出向先を待つという手段もあります。
しかし、その間に新たな出向待機組が増え、人事部から“選ばれる”確率は下がっていくのが現実です。

さらに、戻った先では“ポストなし・肩書きなし”という扱いになることもあり、
精神的な落差は小さくありません。


✅ 銀キャリポイント

銀行員としての物語をどう終えるか?
その“幕引き”を選べる数少ない瞬間が、いまなのかもしれません。

「今、転籍しますか?」という提案は、
じつはあなたの価値がまだ高い証拠

🏷 第3章:出向先のリアル

〜グループ会社か?取引先か?それとも、他業界だったら?〜


転籍を決めたら、あなたの“本籍”は銀行ではなくなります。
そのとき、出向先が「これからの人生のステージ」となるわけです。

だからこそ気になるのは、

「出向先って、実際どんなところ?」
「うまくやっていけるのか?」
「他業界ではどうなんだろう?」

本章では、銀行員が直面する出向先のパターンと、他業界との“違い”まで含めて解説します。


🔹パターン①:グループ会社出向〜慣れた場所、でも決裁力は?〜

銀行の関連会社(子会社・持株会社・信託・リースなど)への出向は、最も多いパターンです。

✅ メリット

  • 環境が似ていて働きやすい
  • 銀行出身者が多く、理解されやすい
  • 役員ポスト(社長・副社長など)に就くケースもある

⚠️ リアル

  • 決裁権や自由度は限定的
  • 元上司がすでに社長で“席が空いていない”ことも
  • 横滑り人事で、“名前は偉いが実権はない”場合も

「支店長時代のほうが、自由に動けていた」
という声は少なくありません。


🔹パターン②:取引先への出向〜人事ガチャ、当たりもハズレも〜

銀行の取引先(企業顧客)へ出向するケースもあります。
製造業、商社、地方中堅企業など、多種多様な業界に送り出されます。

✅ メリット

  • 成長企業では経営に関与できるチャンスあり
  • 「外の視点」を歓迎されることも
  • 実力次第で社外取締役・執行役員に登用される例も

⚠️ リアル

  • どのポストが空くかは完全に“運”=人事ガチャ
  • 経営層と価値観が合わないと居心地が悪い
  • あくまで“外様”として扱われ、権限が限定されることも

🔹それ、銀行特有の文化かも?

「出向ってどこの業界でもあるんでしょ?」
そう思う方も多いのですが、銀行の出向〜転籍〜上乗せ退職金のパッケージは、かなり特殊です。

🔸商社の場合

  • 出向は“育成・戦略配置”の一環
  • 転籍はほぼなし。退職金上乗せも原則なし

🔸証券会社

  • 出向は限定的。転籍より早期退職制度が主流
  • 年功制が薄く、実力主義。制度より“市場”がキャリアを動かす

🔸保険会社(生保)

  • 銀行と似た構造を持つ場合があり、出向→転籍の流れも一部あり
  • ただし、銀行ほど制度が整っているわけではない

🔍 他業界では「逃がす」より「活かす」出向が中心です。
銀行の制度は、**余剰人材を穏便に処理するための“装置”**に近いのです。


🔹では、どの出向先が「当たり」なのか?

答えはシンプルです。
それは、「あなたが自分で選べる」出向先です。

人事部に「この人を推薦したい」と思わせる存在になれば、
たとえ“人事ガチャ”のなかでも、当たりくじの中身が変わってきます。

つまり、選ばれる側から選ぶ側になることが、最も現実的な戦略です。


✅ 銀キャリポイント

他業界にも「出向」「転籍」「退職金上乗せ」は存在しますが、
この3点セット(出向→転籍→上乗せ退職金)を組織的かつ制度として“パッケージ化”しているのは、銀行業界が圧倒的に多いのが実情です。

そのため、「穏やかな引き際のレール」が整備されている点は銀行業界特有のカルチャーと言えるでしょう。

🏷 第4章(最終章):

選ばれる人になるために、今できること 〜50代のキャリアは「準備」で差がつく〜


これまでの章で、出向・転籍・出向先の現実を見てきました。
では最終章では、いよいよ本題――

「その先に進める人」と「足止めを食らう人」の違いとは?

50代銀行員のキャリアの成否は、**“準備の有無”と“人事目線”**でほぼ決まります。


🔹「選ばれる人」に共通する3つの特徴

① 今の会社を「客観視」できている

「銀行の中の評価軸」ではなく、**“市場”や“他社目線”での価値”**に気づいている人。
常に「銀行を出ても通用する自分」でいる意識がある。

② 自分の得意な“型”を持っている

「支店長経験者」「法人営業に強い」など、専門性や再現性のある強みを語れる人。
面談の場でも、“役割が想像しやすい”と受け入れ先に選ばれやすい。

③ 一緒に働きたくなる“人柄”がある

最終的には**「扱いやすいかどうか」**がものを言う場面も多い。
気負いすぎず、謙虚すぎず、ちょうどいい“余白”を持つ人材が好まれる。


🔹 出向・転籍後に生きる人の共通点

  • 「役職」に執着せず、「役割」を全うできる
  • “戻る場所”ではなく、“居場所をつくる力”がある
  • 上から目線ではなく、「今ここで必要とされること」に応える

どんなに立派なキャリアでも、出向先で「使いにくい」と思われたら評価されません。
逆に言えば、“使いやすい実績者”になれば、あなたの居場所は自然にできていきます。


🔹 人事部の本音:「推薦しやすい人」とは?

人事が出向先に紹介する際に考えていることは、こうです:

  • 「この人なら、恥をかかせない」
  • 「最低限、役割を果たしてくれる」
  • 「紹介した自分たちも悪く思われない」

つまり、“人事にとって安心な人材”であることが最大の強み

人事部に「あの人を先に出したい」と思われること――
それが、ガチャを引かずに“当たり”を引き寄せる唯一の戦略です。


🔹 今からできることは、意外とシンプル

  • 経歴を「社外向け」に言語化しておく
     → 銀行内の略語や習慣を、誰でもわかる言葉に直すクセをつける
  • 「やりたいこと」ではなく「役に立てること」を整理
     → 転籍先はあなたの夢の舞台ではなく、“仕事の現場”です
  • 銀行の外の人と定期的に話す
     → 価値観のギャップに慣れておくと、出向後も戸惑わない

✅ 銀キャリポイント

出向・転籍は“選ばれし人だけの話”じゃない。
でも、“選ばれる出向先”にたどり着けるかどうかは、
日々の仕事への向き合い方と、ちょっとした言葉の選び方で決まる。


🎬 エンディング:その選択は、「終わり」ではなく「もう一度、選び直せる」機会

支店長を経験しても、役席にあっても、50代を迎えれば出向の打診は避けられません。
でも、だからこそ言えることがあります。

出向や転籍は、“終わり”じゃない。
むしろ、キャリアのなかで**“もう一度、選び直せる”貴重なチャンス**です。

このタイミングで、あなたは初めて自分自身の意思で、自分の居場所を選べる
そこには、過去の実績も、肩書きも、保証もありません。

でも――だからこそ、**本当の意味での「キャリアの主人公」**になれる瞬間なのかもしれません。

ただし、実際には驚きのこんな例外もあります。

私の愛する元上司は、出向先でなじめず転籍前に1年程度で銀行にいったん戻ってきました。
そして、再度の出向先はまさかの超超優良企業。

数年後に再会し、聞きました。「次はどうですか?」
「実は、今月ちょっと偉くなったよ。まぁ来年の3月は確定申告だ・・・」

4月に昇格して来年確定申告・・・。おみそれしました(笑)
※給与所得者の確定申告は2000万円以上・昇給効果は4月から12月の8ヶ月

そういえば、元組合の三役、頭取と仲良かったな・・・。

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この記事を書いた人

ginkariのアバター ginkari MANAGING DIRECTOR

銀キャリ /

こんにちは、銀キャリへようこそ!
私は、銀行業界で約20年経験を持つ現役の経営者です。これまで、法人営業や資産運用アドバイザーとして働き、多くの企業や個人の財務面をサポートしてきました。

現在は**「銀キャリ」というブログを運営しており、主に銀行員のキャリアアップや転職に関する情報を発信しています。
私自身、銀行員から経営者に転身した経験があり、まだ経営者としては3年**を過ぎたばかりの新米ですが、この経験を通じて読者の皆様にお伝えできることが多いと感じています。

ブログの目的は、銀行員のキャリアを見直すこと。
ファイナンシャルプランニングの専門知識を活かして、キャリアに役立つ情報や投資に関するアドバイスも提供しています。

このブログが、皆様のキャリアをより豊かにするためのヒントやアドバイスの源になることを願っています。

リアルとフィクションを9:1の割合で混ぜて発信。
出典があるもの以外は“読んで楽しむ用”です。
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