──制度の構造と、なぜ「ズルく見える」のか。
後編では「それでも、勝ち組なのか?商工中金の年収」
「民業圧迫」は妬みの裏返し?元銀行員が語る“商工中金の真実”

あの頃、他行の給与表を見るのが密かな趣味だった──。
銀行という業界は不思議なもので、同業でありながら、他行の情報には過剰に慎重になりがちです。
情報漏洩でもないのに、無言の“壁”が存在する。私も長く、その空気の中にいました。
ですが、好奇心というのは抑えられるものではありません。
私は昔から、有価証券報告書を開いては、他行や他社の“財布事情”を眺めるのが癖になっていました。
はい、わかってます。気持ち悪い人ですね。
銀行を離れた今、もう少しフラットな視点でこの業界を見つめられるようになった気がします。
本稿では、あまり語られることのない「商工中金」という存在を、できるだけ中立的にご案内します。
あなたのスケベ心を少しでも満たせたら幸いです。
🏦 商工中金とは何か?
商工中金(商工組合中央金庫)は1936年に設立されました。
当時、昭和初期の恐慌により、中小企業向け融資を担っていた地銀・信金の多くが没落。
その代替として、他行ではできない長期・無担保の融資で中小企業を救う使命を帯びて生まれた金融機関です。
ホームページによると・・・
- 1952年に全国店舗の設置が完了
- 1969年末には貸出残高1兆円、1979年には5兆円を突破
- 1990年には香港駐在員事務所を開設
- 1997年、拓銀破綻時には800億円の緊急融資を行い北海道経済を支援
客観的に見て、社会的意義の高い銀行であることに疑いはありません。
📌 しかし“きれいごと”だけでは語れない現実もある
商工中金は名目上「中小企業のための金融支援」を掲げています。
実際に、中小企業組合やその構成企業への支援を行っており、その役割は重要です。
ところが、実態を見ると以下のような特徴が浮かび上がります:
- 中堅企業や一部の大企業との取引も行っている
- 組合の構成員が大企業である場合、間接的に大手企業とも関係ができる
- 株式会社化を経て、民間金融機関的な役割が強まっている
つまり、「中小企業のため」ではあるが、融資のターゲットは限定されていないということです。
なるほどですね。
🧮 資本構成の背景
設立当初から、政府と中小企業組合による共同出資で運営されてきました。
2005年時点の数字を例にとると:
- 資本金:1,819億円(登記上の額)
- 政府出資額:4,053億円
- 民間出資額:1,118億円
出典:内閣官房 行政改革推進本部資料(2006年)
URL:https://www.gyoukaku.go.jp/genryoukourituka/dai14/siryou1_1.pdf
なぜ資本金より出資額の方が多いのか?
これは、出資金のすべてを資本金にせず、一部(3,352億円)を資本準備金や特別準備金として計上しているからです。
💬 民間主導?本当に?
資本金の内訳だけを見れば、民間出資が多数派。
でも実際には、政府の出資額・関与・法的位置づけ…
どこを取っても**“政府色が濃い”**。
このギャップに目を向けると、商工中金のユニークさと課題が見えてきます。
🔌 政府からの資金供給という“特別な仕入れ先”
商工中金は、一般の金融機関と同じく預金で資金を調達する一方で、政府からの資金供給という“特別ルート”を持っています。
この「政府の資金供給」は、補助金のような“もらいもの”ではなく、以下のような形で行われます:
- 貸付型(返済義務あり)
- 出資型(資本注入)
- 預託型(政府資金を預け、利息付きで返す)
中でも注目すべきは、「超低利」または「無利子」での貸付や預託があるという点です。
これはつまり、商工中金は非常に有利なコストで資金を仕入れられるということ。
💥 なぜ「民業圧迫」と言われるのか
民間銀行は、企業や個人から預金を集めるか、市場から資金を調達して融資を行います。
当然、そこにはコストがかかります。
一方、商工中金は政府の支援により、極めて安価に資金を得ることが可能です。
その結果、こうした声が上がります。
「うちは市場でお金を借りてるのに、あっちはゼロ金利で仕入れて貸してるじゃないか」
このギャップが、“民業圧迫”という批判の根拠になっているのです。
🛡️ 保証協会という“もう一つの手段”
一方で、政府の支援手段として「信用保証協会」を活用する方法もあります。
✅ メリット:
- 銀行のリスクが軽減され、中小企業に融資しやすくなる
- 政府が間接的に支援できる
⚠️ デメリット:
- 申請や手続きが煩雑
- 借り手側に保証料の負担が発生
- 「保証頼みの金融」になりやすく、本質的な信用評価力が育たない
やっぱりセーフティネットは必要。
でも、保証に頼りすぎると金融の目利き力は育たない──バランスが大事ですね。
🚀 “直接貸す”という意味
商工中金や日本政策金融公庫は、保証を介さず、直接貸し出すことができる。
これは特に、危機時や制度的に柔軟な対応が求められる場面で大きな力を発揮します。
- 政策融資を即時実行できるスピード感
- 安心感と信用力
- 金融システムが不安定なときにも“止まらない”
この独自の役割は、保証協会や民間銀行にはないものです。
⚖️ 結局、「誰かがやらなければならない」
中小企業は日本経済の屋台骨。
- 全企業の99%以上
- 全雇用の約7割
- 地域経済の主役
一方で、民間金融にとっては「リスクが高く、儲けにくい」先でもあります。
だからこそ、危機時には必ず支援が必要になるのです。
🧩 最適なのは“トライアングル体制”
- 政府系金融機関(商工中金・日本公庫)
- 信用保証制度
- 民間金融機関
この3者が連携し、それぞれの強みを活かしながら中小企業金融を支えていく。
それが現実的かつ最も効果的な構図なのでしょう。
🧭 最後に──あらためて、商工中金という存在
商工中金は、特別なポジションにある存在です。
制度的に優遇されている一方で、
社会的な使命を負い続けてきたこともまた事実。
その存在を「ズルい」と感じるとき、
私たちはつい、こうつぶやいてしまうのです。
「民業圧迫!!」
でも本音を言えば、
あれはたぶん、いや絶対に妬みだったのだと思います。
だって給料もいいし・・・。いいな
✏️ 文:元銀行員ライター
📅 次回:後編では「それでも、勝ち組なのか?商工中金の年収」
👇併せて読みたい
→ 【もう1つの第1章】
