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【9】【第3話】 「手に入れた“力”と、見えなかった“天井”」

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■ 数字じゃ語れない「現場でしかわからない価値」

工場での修行が一区切りを迎え、
私は社内のサービスエンジニア試験でS評価を獲得。
これで、ひとまず“工場での修行は卒業”という形になりました。

その頃には私も、1人前の組立者として、しっかり工程に組み込まれていました。

そんなタイミングで、本社の営業さんから声がかかりました。

「現場の工事、ちょっと手伝ってもらえない?」

全国で進行中の案件で技術的な課題が出ており、
工場の上司と“セット”で、全国の現場に同行するようになったのです。

現場では、工場以上に、製品は過酷な使われ方をしていました。

本来は水平に設置する機器が斜めに置かれていたり、
対応していない温度・湿度環境で無理に使われていたり。
なかには「これ、使い方逆じゃないか…?」と思うような現場もありました。

「こんな環境で使われているなら、そりゃ壊れるよな……」

設計と現場。
仕様書と実態。
そのすれ違いを肌で感じたとき、私は強く思ったのです。

「製品の価値は、カタログで決まるもんじゃない」

机上のスペックではなく、
“どんな現場で、どう使われて、どう耐えるか”——
それが本当の“製品力”なんだと、初めて体で理解できた瞬間でした。

ある日、リペア対応を終えた現場で、
顧客の担当者がふっと笑顔を見せて言いました。

「いや〜、助かりました。やっぱり、現場を知ってる人の対応は違いますね」

その一言が、どれほど励みになったことか。

銀行時代は、数字ですべてを語ってきた。
でも、現場では数字だけじゃ伝わらない、汗と工夫と肌感覚の世界がありました。

私はこのとき——
「技術を身につけた自分は、次こそ海外営業に戻れる」
そう信じて疑っていなかったのです。

■ 技術ができる。でも、それだけの人だった。

ところが、任されたのは、“国内の現場プレイヤー”としてのポジションでした。

会社が必要としていたのは、
「経営を語れる人」ではなく、
**「現場で手を動かせる人」**だったのです。

工場での経験を評価してくれたのは間違いありません。
でも、そこから先——たとえば、
**「技術を背景にした経営提案ができる人材」**として見てもらえることは、ありませんでした。

まわりからはよく言われました。

「現場を分かってるのは強みだよ」
「技術があるから頼りにしてる」

ありがたい言葉です。
でもどこかで、私はこう思ってしまっていました。

「その先へ行くために、あんなに頑張ってきたのに…」

「現場対応の即戦力」として評価されることが、
私にとっては、静かな“天井”のように感じられたのです。

■ 私は、ただの“現場のおじちゃん”になっていた

そして、ふと気づいたのです。

「なんで、銀行を辞めたんだったっけ?」
「この仕事って、別に“俺”じゃなくてもよくね?」

技術も身につけた。現場も走り回った。

でも、気がつけば私は、ただの“現場のおじちゃん”になっていました。
腰にタオルぶら下げて、工具箱の中身を語ってる自分に気づいたとき、ふと「俺、大丈夫か?」って思った。
そこにあるのは、やりがいではなく、「便利な人材」としての存在価値。

自分の存在意義を、自分で見失いかけていました。

そもそも——
“海外営業に就けば社長と話せる”と思っていたけど、
本当にそうだったのか?
肩書きと目的を、私は取り違えていたのかもしれません。

私が本当にやりたかったことは何だったのか。
誰と、何を、どう語りたかったのか。

その答えが、どこか遠くにぼやけて見えなくなっていました。

私は、完全に——迷走していました。

そんな年末に、海外から一本の電話が鳴ったのです。
つづく

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この記事を書いた人

ginkariのアバター ginkari MANAGING DIRECTOR

銀キャリ /

こんにちは、銀キャリへようこそ!
私は、銀行業界で約20年経験を持つ現役の経営者です。これまで、法人営業や資産運用アドバイザーとして働き、多くの企業や個人の財務面をサポートしてきました。

現在は**「銀キャリ」というブログを運営しており、主に銀行員のキャリアアップや転職に関する情報を発信しています。
私自身、銀行員から経営者に転身した経験があり、まだ経営者としては3年**を過ぎたばかりの新米ですが、この経験を通じて読者の皆様にお伝えできることが多いと感じています。

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