「まさか自分が“出向待機組”になるなんて――」
そうつぶやくのは、かつて部下を率いた支店長経験者。
銀行では、**50歳を過ぎれば、どんな肩書きでも“例外ではない”**のが現実です。
そして1年後、耳元でささやかれます。
「転籍すれば、退職金に1,200万円上乗せしますよ」
出向するか、残るか。転籍するか、断るか。
選ぶのは自分――でも、備えていない人には選択肢すら与えられません。
本記事では、そんな50代銀行員のキャリア分岐点「出向・転籍」のリアルを、
制度の仕組みから、実際の処遇、そして“その先”までわかりやすく解説します。
🏷 第1章:出向とは?〜籍は銀行、仕事は他社〜
「あなたのキャリア、まだ“本体”にありますか?」
気づけば、出向待機の列に並んでいた――
そんな言葉が、50代銀行員の間で、静かに現実味を帯びてきます。
かつて部下を率いた支店長。
本部で組織を動かしていた課長・部長クラス。
そんな人たちが、今では「次の行き先」を人事部から告げられ、
“次のキャリアステージ”に向かって送り出されていく。
🔹 出向とはなにか? 〜在籍は銀行、でも評価軸は別の世界〜
出向とは、銀行に在籍しつつ、他社(グループ会社や取引先など)で働く制度。
法的には「在籍出向」と呼ばれ、形式上は“異動”ですが、実質は別の人生の始まりです。
勤務先の社名も変わり、名刺も変わり、評価も給与体系も変わります。
行内で培った人間関係や功績はリセット。
ゼロベースのキャリアが、またここから始まるのです。
🔹 一見優しい制度の、優しくない現実
銀行はこう言ってくれます。
「安心してください。出向前の給与は定年の60歳まで保証されますから」
たしかにありがたい制度です。
でも裏を返せば、“出向を受け入れれば”の話。
もしこれを断ればどうなるか?
行内に役職は用意されておらず、
現場プレイヤーとして、かつての部下の下で働くという現実が待っています。
つまり、出向は“選択肢”のようでいて、
**実質的には「事実上の一択」**なのです。
🔹 50代の静かな列──“出向待機組”のリアル
50歳を迎える少し前、ふと気づけば
「次は誰が出向するのか」という空気が社内に流れ始めます。
昇進・異動・肩書きの裏にある“見えない順番”。
人事の動きを見る目が変わり、自分もついにその列に入っていることを感じ始める。
誰にも言わないけれど、みんな気づいている。
それが、銀行員の“出向前夜”です。
🔹 出向先で待っているもの
たとえ肩書きが「社長」や「副社長」でも、
処遇を含めてグループ会社のそれは横滑り、または格下感のあるポジションのケースが多いです。
現役時代のように、力強く決裁できるとは限りません。
かつての部下に「今度こちらでお世話になります」と頭を下げ、
お客様に「また来てくれたんですね」と言われる。
やがて、それが日常になっていく。
一方、取引先企業への出向は完全な人事ガチャ。
実力だけではなく、「タイミング・人脈・運」がものを言います。
🏷 第2章:転籍の誘惑とカラクリ 〜「退職金1,200万円上乗せ」の正体〜
出向から1年ほど経ったある日、
人事部から、静かにこう切り出されます。
「転籍すれば、退職金に1,200万円上乗せされますよ」
語尾はやさしい。表情も穏やか。
でもその一言には、銀行員人生の“終章”を決める意味が込められています。
🔹 転籍とはなにか?まずは定義から整理
「転籍」とは、現在出向している会社に完全に移籍すること。
つまり、銀行との雇用契約を解消し、銀行員としての籍が消えるということです。
項目 | 出向 | 転籍 |
---|---|---|
雇用主 | 銀行(在籍のまま) | 出向先企業に完全移籍 |
雇用契約 | 継続 | 終了・新たに結び直す |
給与保証 | 銀行が差額を補填 | 補填なし(自己責任) |
退職金 | 通常通り | 条件付きで上乗せされることあり |
転籍を決断した瞬間、あなたはもう“元銀行員”になります。
その見返りとして提示されるのが、**「上乗せ退職金」**なのです。
🔹 なぜ1,200万円も?仕組みを分かりやすく
たとえば、以下のようなケースを見てみましょう。
- 年齢:54歳
- 銀行時代の年収:1,000万円
- 出向先での年収:800万円
- 定年までの年数:6年
この場合、年収差額の200万円 × 6年 = 1,200万円
ざっくりこれが、転籍時の「退職金上乗せ額」として提示されるわけです。
銀行としては、「差額を払い続けるより、今ここでまとめて支払ってもらえたほうがいい」という合理的判断。
裏を返せば、**これが最初で最後の“好条件”**とも言えます。
🔹 そのとき、あなたはどうするか?
転籍することで、出向先企業における「正式な社員」になります。
今まで“外部の人”として遠慮していた部分も、晴れて自分の職場になるわけです。
でも、一度銀行を離れたら、もう戻る場所はありません。
「安定」か「繋がり」か――。
そこで多くの人が揺れます。
「この会社で本当に、定年まで勤め上げられるのか?」
「このタイミングが最後の好条件かもしれない……でも、今決めていいのか?」
「何より、自分はもう“銀行員じゃなくなる”んだな」
これはもう、“制度”ではなく“人生の決断”です。
🔹 銀行が“いま”提案してくる理由
ここには、人事部の静かな戦略があります。
- 出向待機の50代がまだ控えている
- 転籍者が出れば、出向枠が空く
- 人事異動の調整コストが下がる
- 給与補填を6年払い続けるよりも、退職金で一括処理した方がコストが軽い
つまり銀行側にとっても、**「今のあなたに転籍してもらえるのが一番都合がいい」**のです。
だからこそ、このタイミングの打診は“好条件”。
これを逃せば、次はもっと条件が厳しくなるかもしれません。
🔹 断ることはできるのか?
もちろん、転籍の提案を断ることも可能です。
55歳未満であれば、一度本体に戻って次の出向先を待つという手段もあります。
しかし、その間に新たな出向待機組が増え、人事部から“選ばれる”確率は下がっていくのが現実です。
さらに、戻った先では“ポストなし・肩書きなし”という扱いになることもあり、
精神的な落差は小さくありません。
✅ 銀キャリポイント
銀行員としての物語をどう終えるか?
その“幕引き”を選べる数少ない瞬間が、いまなのかもしれません。
「今、転籍しますか?」という提案は、
じつはあなたの価値がまだ高い証拠。
🏷 第3章:出向先のリアル
〜グループ会社か?取引先か?それとも、他業界だったら?〜
転籍を決めたら、あなたの“本籍”は銀行ではなくなります。
そのとき、出向先が「これからの人生のステージ」となるわけです。
だからこそ気になるのは、
「出向先って、実際どんなところ?」
「うまくやっていけるのか?」
「他業界ではどうなんだろう?」
本章では、銀行員が直面する出向先のパターンと、他業界との“違い”まで含めて解説します。
🔹パターン①:グループ会社出向〜慣れた場所、でも決裁力は?〜
銀行の関連会社(子会社・持株会社・信託・リースなど)への出向は、最も多いパターンです。
✅ メリット
- 環境が似ていて働きやすい
- 銀行出身者が多く、理解されやすい
- 役員ポスト(社長・副社長など)に就くケースもある
⚠️ リアル
- 決裁権や自由度は限定的
- 元上司がすでに社長で“席が空いていない”ことも
- 横滑り人事で、“名前は偉いが実権はない”場合も
「支店長時代のほうが、自由に動けていた」
という声は少なくありません。
🔹パターン②:取引先への出向〜人事ガチャ、当たりもハズレも〜
銀行の取引先(企業顧客)へ出向するケースもあります。
製造業、商社、地方中堅企業など、多種多様な業界に送り出されます。
✅ メリット
- 成長企業では経営に関与できるチャンスあり
- 「外の視点」を歓迎されることも
- 実力次第で社外取締役・執行役員に登用される例も
⚠️ リアル
- どのポストが空くかは完全に“運”=人事ガチャ
- 経営層と価値観が合わないと居心地が悪い
- あくまで“外様”として扱われ、権限が限定されることも
🔹それ、銀行特有の文化かも?
「出向ってどこの業界でもあるんでしょ?」
そう思う方も多いのですが、銀行の出向〜転籍〜上乗せ退職金のパッケージは、かなり特殊です。
🔸商社の場合
- 出向は“育成・戦略配置”の一環
- 転籍はほぼなし。退職金上乗せも原則なし
🔸証券会社
- 出向は限定的。転籍より早期退職制度が主流
- 年功制が薄く、実力主義。制度より“市場”がキャリアを動かす
🔸保険会社(生保)
- 銀行と似た構造を持つ場合があり、出向→転籍の流れも一部あり
- ただし、銀行ほど制度が整っているわけではない

🔍 他業界では「逃がす」より「活かす」出向が中心です。
銀行の制度は、**余剰人材を穏便に処理するための“装置”**に近いのです。
🔹では、どの出向先が「当たり」なのか?
答えはシンプルです。
それは、「あなたが自分で選べる」出向先です。
人事部に「この人を推薦したい」と思わせる存在になれば、
たとえ“人事ガチャ”のなかでも、当たりくじの中身が変わってきます。
つまり、選ばれる側から選ぶ側になることが、最も現実的な戦略です。
✅ 銀キャリポイント
他業界にも「出向」「転籍」「退職金上乗せ」は存在しますが、
この3点セット(出向→転籍→上乗せ退職金)を組織的かつ制度として“パッケージ化”しているのは、銀行業界が圧倒的に多いのが実情です。そのため、「穏やかな引き際のレール」が整備されている点は銀行業界特有のカルチャーと言えるでしょう。
🏷 第4章(最終章):
選ばれる人になるために、今できること 〜50代のキャリアは「準備」で差がつく〜
これまでの章で、出向・転籍・出向先の現実を見てきました。
では最終章では、いよいよ本題――
「その先に進める人」と「足止めを食らう人」の違いとは?
50代銀行員のキャリアの成否は、**“準備の有無”と“人事目線”**でほぼ決まります。
🔹「選ばれる人」に共通する3つの特徴
① 今の会社を「客観視」できている
「銀行の中の評価軸」ではなく、**“市場”や“他社目線”での価値”**に気づいている人。
常に「銀行を出ても通用する自分」でいる意識がある。
② 自分の得意な“型”を持っている
「支店長経験者」「法人営業に強い」など、専門性や再現性のある強みを語れる人。
面談の場でも、“役割が想像しやすい”と受け入れ先に選ばれやすい。
③ 一緒に働きたくなる“人柄”がある
最終的には**「扱いやすいかどうか」**がものを言う場面も多い。
気負いすぎず、謙虚すぎず、ちょうどいい“余白”を持つ人材が好まれる。
🔹 出向・転籍後に生きる人の共通点
- 「役職」に執着せず、「役割」を全うできる
- “戻る場所”ではなく、“居場所をつくる力”がある
- 上から目線ではなく、「今ここで必要とされること」に応える
どんなに立派なキャリアでも、出向先で「使いにくい」と思われたら評価されません。
逆に言えば、“使いやすい実績者”になれば、あなたの居場所は自然にできていきます。
🔹 人事部の本音:「推薦しやすい人」とは?
人事が出向先に紹介する際に考えていることは、こうです:
- 「この人なら、恥をかかせない」
- 「最低限、役割を果たしてくれる」
- 「紹介した自分たちも悪く思われない」
つまり、“人事にとって安心な人材”であることが最大の強み。
人事部に「あの人を先に出したい」と思われること――
それが、ガチャを引かずに“当たり”を引き寄せる唯一の戦略です。
🔹 今からできることは、意外とシンプル
- 経歴を「社外向け」に言語化しておく
→ 銀行内の略語や習慣を、誰でもわかる言葉に直すクセをつける - 「やりたいこと」ではなく「役に立てること」を整理
→ 転籍先はあなたの夢の舞台ではなく、“仕事の現場”です - 銀行の外の人と定期的に話す
→ 価値観のギャップに慣れておくと、出向後も戸惑わない
✅ 銀キャリポイント
出向・転籍は“選ばれし人だけの話”じゃない。
でも、“選ばれる出向先”にたどり着けるかどうかは、
日々の仕事への向き合い方と、ちょっとした言葉の選び方で決まる。
🎬 エンディング:その選択は、「終わり」ではなく「もう一度、選び直せる」機会
支店長を経験しても、役席にあっても、50代を迎えれば出向の打診は避けられません。
でも、だからこそ言えることがあります。
出向や転籍は、“終わり”じゃない。
むしろ、キャリアのなかで**“もう一度、選び直せる”貴重なチャンス**です。
このタイミングで、あなたは初めて自分自身の意思で、自分の居場所を選べる。
そこには、過去の実績も、肩書きも、保証もありません。
でも――だからこそ、**本当の意味での「キャリアの主人公」**になれる瞬間なのかもしれません。
ただし、実際には驚きのこんな例外もあります。
私の愛する元上司は、出向先でなじめず転籍前に1年程度で銀行にいったん戻ってきました。
そして、再度の出向先はまさかの超超優良企業。
数年後に再会し、聞きました。「次はどうですか?」
「実は、今月ちょっと偉くなったよ。まぁ来年の3月は確定申告だ・・・」
4月に昇格して来年確定申告・・・。おみそれしました(笑)
※給与所得者の確定申告は2000万円以上・昇給効果は4月から12月の8ヶ月
そういえば、元組合の三役、頭取と仲良かったな・・・。

