「審査に落ちた」のではない
──2025年12月24日の日経新聞の記事を読んで
2025年12月24日の日経新聞に、
都内20代の住宅ローンについての記事が掲載されていました。
ペアローンと35年超、最長50年という返済期間を選ぶ若い世帯が増えている、という内容です。
読み終えたあと、正直に言うと、私は少し背筋が冷えました。
記事に書かれている事実や数字は、どれも間違っていません。
住宅価格の高騰、共働き世帯の増加、
返済期間を延ばせば月々の返済額が下がるという計算も、理屈としては正しい。
それでも「危ない」と感じたのは、
数字の裏に置かれている前提条件が、ほとんど語られていなかったからです。
銀行は「返せるか」ではなく「回収できるか」を見る
住宅ローンについて、まず整理しておきたいことがあります。
銀行は、
「この人が無理なく返せるか」を基準にお金を貸しているわけではありません。
銀行が見ているのは、
最悪の状況でも回収できるかどうかです。
住宅ローン審査の規定上、
会社員・年収500万円で4,000万円の借入は、
許容範囲に入るケースが少なくありません。
それでも審査に通らなかったお客様から、
「銀行は厳しすぎる」と言われたことがありました。
でも、正確にはこうです。
厳しいのではなく、
「貸しても回収できない」と判断された。
転職、病気、収入減、不動産価格の下落。
そうした“うまくいかなかった場合”を織り込んだ結果、
このローンは最後まで回らないと判断されただけです。
本当に怖いのは、
審査に落ちることではありません。
本来は危うい水準でも、
担保や制度によって「通ってしまう」ことです。
住宅ローン金利が低い理由
住宅ローン金利が低いのは、
借り手に優しいからではありません。
- 不動産という強力な担保
- 団体信用生命保険
- 生活必需で逃げにくい
- 超長期で利息を取り続けられる
これらが揃っているから、
銀行にとって非常に完成度の高いストック型金融商品になっています。
銀行はストック産業です。
元金を早く返してもらうより、
元金を市場に残し、利息を長く取り続ける方が合理的。
だから住宅ローンは、
返済初期に元金がほとんど減らない設計になっています。
変動金利と125%ルールという錯覚
変動金利の住宅ローンには、
いわゆる125%ルールがあります。
金利が上がっても、
返済額は急激に増えない。
一見すると、安心できる仕組みに見えます。
でも実態は、ただの先延ばしです。
- 金利は上がる
- 利息は確実に増える
- 返済額は抑えられる
- 元金は減らない
- 条件次第では、実質的に増えることすらある
特に、
高額 × 超長期 × 返済初期
この組み合わせでは、
「返しているのに借金が減らない」状態が、普通に起きます。
問題が消えたわけではありません。
時間の後ろに隠れているだけです。
1億円を50年で買うという意味
1億円を50年で借りるということは、
毎年200万円分の価値があると判断して、その家を買っているということです。
その価値を、
50年間、享受し続ける前提。
では、
転勤になったらどうするのか。
働き方が変わったら。
家族構成が変わったら。
その瞬間、
それは「マイホーム」でしょうか。
それとも「動かせない負債」でしょうか。
固定資産税という、もう一つの現実
さらに見落とされがちなのが、
固定資産税です。
固定資産税は、
固定資産税評価額の1.4%。
評価額1億円クラスであれば、
年間約140万円。
月に直せば、11〜12万円です。
ローンとは別に、
毎年、確実に出ていくお金。
単純に考えると、
1.4% × 70年 ≒ 100%。
70年で、評価額と同じくらいの金額を
税金として払い続ける構造になります。
ローンは50年。
税金はそれ以上。
この時間差に、
違和感を覚えないでしょうか。
「値上がりしたら売ればいい」という発想について
もちろん、
若くして超長期の住宅ローンを組んでいる人の中には、
いざとなれば実家の支援があるという人もいるでしょう。
また、記事にもあるように、
「値上がりしたら売ればいい」という考え方も、
理屈としては理解できます。
ただ、ここで一度、立ち止まって考えてみたい。
それは、
投資でしょうか。
ギャンブルに近い側面もあります。
住宅は株ではありません。
「売ればいい」と言うのは簡単ですが、
売る前に、必ず引っ越しが必要です。
仮住まい、引っ越し費用、生活環境の変化。
その間も、ローンも税金も止まりません。
住み替えローンという現実
そして売却と同時に次の家を買う場合、
多くの人が直面するのが住み替えローンです。
正直に言います。
住み替えローンほど大変なローンはありません。
- 既存ローンが残っている
- 新しいローンも必要
- 売却価格が確定していない
銀行から見れば、
リスクの塊です。
さらに見落とされがちな点があります。
あなたの家を買ってくれる人のローンが落ちる可能性。
これは、あなたにはコントロールできません。
そして重要なのは、
その買主のローン否決は、
あなたの次の住宅ローン特約では守られていない
という事実です。
「売ればいい」は、
出口戦略のようでいて、
実は願望に近い。
それでも、すべてを否定する話ではない
ここまで読んで、
「じゃあ買うな、という話か」と感じた方もいるかもしれません。
そうではありません。
若くして超長期ローンを組んでいても、
- 実家の支援
- 資産の裏付け
- 高いリスク耐性
を前提に、
冷静に判断している人もいるでしょう。
ただ、問題はそこではありません。
情報にあふれる時代だからこそ、問われる判断軸
いまの時代、
住宅ローンに関する情報はあふれています。
正しそうな理由は、
いくらでも見つかる。
だからこそ必要なのは、
情報ではなく、判断基準です。
「借りられるか」ではなく、「身の丈に合っているか」
審査に通るか。
月々いくら払えるか。
それらは判断材料の一部にすぎません。
本当に問うべきは、
- 人生の変化に耐えられるか
- 選択肢を狭めないか
- 想定外が起きたとき、逃げ道があるか
そして最後に、
こう自問できるかどうか。
これは、本当に自分の身の丈に合った選択か?
大人の判断が、ますます求められる時代へ
誰かの正解が、
自分の正解とは限りません。
背景も、環境も、
リスク耐性も違う。
だからこそ、
「みんながやっているから」ではなく、
「自分はどうか」で考える。
住宅ローンは、
金融商品の選択である前に、
人生への態度の表明です。
2025年12月24日の日経新聞の記事を読んで、
私はそう感じました。

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