なぜ、同じ説明をしているのに、
人によって答えが変わる会社と、
誰がやっても同じ結果になる会社が存在するのか。
タイで工場経営を任された私は、
この“謎”に毎日のようにぶつかった。
設備でも、経験でも、給与でもない。
会社の再現性を決めていたのは──
言葉の構造化ができているかどうかだった。
銀行員として20年、私は毎朝“通達の山”に埋もれていた。
正直に言えば、あれほど面倒なものはなかった。
しかし、通達のない現場で働くようになったとき、
私は気づいた。
通達とは、組織の記憶をつくる技術であり、
通達を読み解く力=「通達筋」は、AI時代の武器になる。
この記事では、銀行で鍛えられた“通達筋”が、
なぜタイ製造業や中小企業の「属人化の壁」を突破する鍵になるのかを解き明かす。
【この記事が刺さるペルソナ】
✔ 中小企業の社長
✔ 日本人駐在員・工場長
✔ 仕組み化・標準化に悩む管理職
✔ タイ人スタッフの教育で苦しむ方
✔ AIを使いこなしたいが、文章構造が苦手なビジネスパーソン
共通する悩みはただ一つ。
「同じミスが何度も繰り返される」
本章は、その原因を“構造”から明らかにする。
2.1 通達がない会社は、自由で速い──だが記憶が残らない
タイの工場でまず驚いたことがありました。
ルールが、ないのです。
正確に言えば、あるのかもしれません。
けれど「誰がいつ決めたのか」「それは正しいのか」「全員で統一されているのか」と尋ねても、
誰もはっきり答えられませんでした。
一方で、驚くほどスピード感があります。
現場の判断が早く、決断も軽やかです。
会議もほとんどなく、その場で「やってみよう」で動いていきます。
最初のうちは「なんて柔軟な会社なんだ」と感心していました。
しかし、半年ほど経つと違和感が生まれました。
同じ質問をしても、人によって答えが違うのです。
新人が入ると、伝言ゲームが始まり、
いつの間にか“正しいやり方”が別のものに変わっていく。
そして私は、決定的な問題に直面します。
🔧【実例】通達がない現場で起きた“小さな、しかし致命的なトラブル”
研磨後の寸法を測る際、
日本では「標準温度=20℃」を前提に計測するのが常識です。
しかしタイの現場は、
一年中 30℃前後 が当たり前。
つまり──
- 日本人スタッフは JIS規格通り20℃基準
- タイ人スタッフは 30℃基準
で寸法を判断していたのです。
どちらも正しい。
どちらも“自分の常識”で動いているだけ。
だが、熱膨張率は気温で変わる。
同じ製品を測っているはずなのに、
数値が微妙にズレる原因はここにありました。
会社として、どの温度を基準にするかという“言葉のルール”が存在しなかった。
そこで私は決めました。
熱膨張を考慮し、「タイ国内仕様の基準温度は30℃とする。」
会社の現実(タイの気候)に揃える。
たった一行の通達で、
計測の誤差と追加工がピタッと止まりました。
私はこの瞬間を忘れない。
通達とは、現場の“前提”を揃える技術なのだ。
こうして、私は銀行員時代に気づかなかった
「通達の価値」を初めて体感したのです。
2.2 銀行という“通達漬け”の異世界
銀行員時代、私は毎朝のように通達を読んでいました。
新しい制度、金利変更、社内規定──。
分厚い紙が机に積み上がっていく。
正直、うんざりでした。
けれど今ならわかります。
通達とは、「なぜ」「何が変わり」「どう対応すべきか」を構造化した知のパッケージだった。
通達を読み解くことは、
複雑な状況を分解し、意味の関係を整理する訓練でした。
その蓄積が、私にとっての “通達筋” を育てていたのです。
2.4 現場で感じた「通達筋」のありがたさ
作業標準、品質基準、指示書、報告書──。
文章で構造化するほど、現場の混乱は静かに消えていきました。
通達筋があると:
- 混乱を予測して書ける
- 読む人の視点で構成できる
- 誰が読んでも同じ行動ができる
逆に通達筋がないと:
「書いた人だけが分かる資料」
「聞かないと分からない指示」
ばかりが増えていく。
文章力とは“知識”ではなく、
構造を整える技術だと痛感します。
2.5 通達筋は、AI時代の“構造リテラシー”
AIは言葉を扱えるが、
“前提”と“構造”を自動で設計することはできません。
AIを使いこなすには、人間側が
- 文脈
- ルール
- 目的
- 制約
- 例示
を構造化して渡す必要があります。
だから、AI時代のリーダーは
通達筋を持っている人です。
通達筋とは、AIと人間をつなぐ「言葉の設計力」である。
2.6 銀行で学んだこと、現場で気づいたこと
銀行は異常なほど通達に埋もれていた。
しかし、通達のない現場に立ったとき、
私はその「異常さの意味」を理解した。
通達があったから、構造があった。
構造があったから、人が動けた。
中小企業がつまずくのは、
ルールがないからではない。
“再現できる言葉”を残す文化がないからだ。
そして今、AIは文章を生成できるようになった。
しかし、AIに「何を書くべきか」を教えられるのは人間だけです。
🔚 次章予告
次章では、なぜ中小企業に「通達文化」が根づかなかったのか。
そして“書けない文化”はどこから生まれたのか。
その原因を、現場のリアルから深掘りします。
📝 最後に読者への問い
あなたの組織には、
「未来に残す言葉」 はありますか?

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