タイで働く日本人マネージャー・人事担当者にとって、避けて通れない制度改正です。この記事では、現場で実際に起きた混乱と、今後取るべき対応策をわかりやすく整理しました。
2025年10月──。
「10人以上の従業員がいる会社は、全員に退職金制度を!」
そんなニュースが、タイの人事・総務担当者を一気にざわつかせました。
実はこれ、「Employee Welfare Fund(従業員福利基金)」のこと。
いわゆる“退職金制度の義務化”です。
でも、現場ではかなりの混乱が起きていました。
■「8月末までに登録を!」と、急に言われた8月。
今年の8月中旬ごろ。
人事関係のSNSや会計事務所から、こんな情報が回り始めました。
「10人以上の従業員を雇っている会社は、8月末までにウエルフェアファンドへ登録を!」
突然の“期日”に、社内がざわついた企業も多かったと思います。
「うち、プロヴィデントファンド(積立型退職基金)あるから関係ないよね?」
「いや、全員が入ってなかったら対象ですよ」
そんな会話がタイ全土で繰り広げられていました。
■システムが止まった──オンライン登録ができない?
8月後半には、オンライン登録サイトそのものがアクセス集中でストップ。
「まさかの締切前にサーバーダウン…」
という笑えない展開。
結果、各社は“登録できなかった組”と“様子見組”に分かれました。
「とりあえず登録済み扱いにしておこう」と、HR部門も苦笑いだったようです。
■そして、まさかの“1年延期”発表。
そんな混乱のさなか、8月末。
政府から正式に発表がありました。
「Employee Welfare Fund の拠出義務開始は、2026年10月1日へ延期」
拍子抜けした人も多かったのではないでしょうか。
あの騒ぎは何だったのか…。
ただし、“義務化そのもの”が撤回されたわけではありません。
■制度の中身、ざっくり整理。
- 対象:10人以上の従業員を雇用するすべての企業
- 拠出:雇用主と従業員が同額(0.25%〜将来的に0.5%)を負担
- 開始:当初2025年10月 → 延期後は2026年10月予定
- 免除:既にプロヴィデントファンドなどで全員をカバーしている場合は対象外
要するに、退職金制度のない会社は、EWFへの加入が必須。
しかし今のところ、資金運用や給付ルールの実績はゼロ。
まだ「箱だけができた」状態です。
ここで混同しがちなのが、EWFとプロヴィデントファンドの違い。
EWFは政府主導の“強制的な退職金制度”で、
プロヴィデントファンドは企業が自主的に設ける福利厚生制度です。
つまり、性格も運営主体もまったく異なります。
現行の法定退職金制度では“解雇されたときだけ”給付されますが、EWFでは自己都合退職でも積立分の給付が受けられる見込みです。つまり、従業員がより公平に守られる制度へ一歩前進したと言えるでしょう。
■実際の運用は?
現場感覚で言えば、まだ何も動いていません。
資金が積み立てられた例も、退職者への支給例もなし。
いまは、
「会社としてどの制度で対応するか」
を決める段階。
給与システムに反映させる準備を進めている企業が多いようです。
■来年、本当に始まるのか?
延期でひと安心…と思いきや、油断は禁物。
タイではこういう制度、半年くらい前から急に騒ぎ出すのが定番です。
「6月ごろから、また“8月末までに登録を!”って言い出すんでしょうね。」
──タイ在住者なら、誰もがそう感じているはずです。
■銀キャリ的まとめ
- 2025年10月から始まるはずだった退職金制度「EWF」は、1年延期(2026年10月スタート予定)。
- 現状は“義務化決定済み”ではあるが、実際の運用はまだ始まっていない。
- 「10人以上の従業員がいる」「退職金制度がない」会社は、早めに準備が必要。
- プロヴィデントファンドは福利厚生の一環として、入社3年目から加入など社内ルールを設けているケースもあります。
今回のルールでは「全員が入っていない場合、EWFへの加入が必要」と定められています。ご注意ください。 - EWFは国家主導の制度、プロヴィデントファンドは企業主導の制度──この違いを押さえておくことが重要です。
とはいえ、2026年に本当に始まるかどうかは、まだ誰にもわかりません。
タイらしい、じわじわ型の義務化。
来年の夏、また一斉に“騒ぎ”が始まる予感です。
制度は遅れても、準備だけは早めに。
銀キャリは、“制度と現場のギャップ”に光を当てます。
タイで働くすべての日本人に、リアルな「制度運用の現場」を届けていきます。



コメント